防衛費で鉄道整備を検討!物流・バス不足の交通危機は救われる?

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政府が、防衛関連経費の「公共インフラ整備」の対象に、鉄道を加える検討に入ったと報じられました。

年末に改定する安全保障関連3文書に、鉄道整備の重要性を書き込む方向とされています。

名目は、有事に備えて自衛隊の物資や装備品を運ぶルートを確保することです。

一方で、日本の交通はすでに、トラックやバスの運転手不足という別の危機を抱えています。

防衛のための鉄道整備は、こうした暮らしの交通の危機にも効くのでしょうか。

この記事では、検討の中身と、物流や地域交通の現状を並べて見ていきます。


目次

何が検討されているか(2026年10月12日時点)

検討しているもの防衛関連経費の「公共インフラ整備」の対象に鉄道を追加
今の主な対象空港・港湾と、そこへつながる道路
目的有事の際の物資補給や装備品の輸送ルートの確保
想定される整備利用の少ない路線の維持、複線化やトンネルの拡幅、鉄道とつながる物資の集積拠点
決まる時期年末の安保3文書の改定に向けて検討中

10月12日時点では、政府の正式な決定ではなく、検討の段階です。

対象になる具体的な路線名は、まだ明らかになっていません。


いまの「公共インフラ整備」は空港と港湾

「公共インフラ整備」は、自衛隊や海上保安庁が、ふだんから民間の空港や港湾を使えるようにする仕組みです。

対象は「特定利用空港・港湾」と呼ばれ、2026年4月の追加で24空港、33港湾になりました。

滑走路や岸壁の整備に加えて、駐屯地などと結ぶ道路の整備も対象です。

2026年度の予算では、空港・港湾・道路をあわせて約2250億円が計上されています。

仕組みの説明は、内閣官房の「公共インフラ整備」に関するQ&Aで確認できます。


「民間の需要が乏しくても」という転換

これまでの空港や港湾の整備は、民間の利用を主としながら、自衛隊なども使えるようにするという考え方でした。

ところが、9月に開かれた政府の有識者会議では、「民生ニーズが乏しいものの、特に防衛省の強いニーズがある整備」についても、在り方を検討する方針が示されました。

鉄道でいえば、乗る人や運ぶ荷物が少なくても、防衛上必要な路線は残すという発想です。

赤字のローカル線をどうするかが各地で議論されるなか、「防衛」という別の物差しが加わることになります。


交通の現場はすでに危機にある

分野見通し・現状
トラック輸送何も対策をしなければ、2030年度に輸送力が約34%不足
路線バス2030年に運転士が約3.6万人不足(業界団体の試算)
地域の足公共交通を使いにくい「交通空白」が全国892市区町村・2740地区(2026年6月 国土交通省発表)
国の目標鉄道コンテナと内航海運の輸送量を、2030年代前半までに倍増

トラック運転手の残業規制が強まった2024年以降、運ぶ力の不足は現実の問題になっています。

国は、トラックで運んでいる荷物を鉄道や船に移す「モーダルシフト」を進めるとしています。

目標や対策は、国土交通省の「新たなモーダルシフトに向けた対応方策」(PDF)にまとめられています。

路線バスも運転士不足で減便や廃止が続き、地方では通院や買い物の足が細っています。

マイカーに頼ろうにも、高齢で運転をやめる人が増え、車を持ち続ける負担も軽くはありません。

鉄道は、少ない運転士で多くの人や荷物を運べる乗り物です。


防衛の鉄道と暮らしの鉄道は重なるのか

重なる部分はあります。

自衛隊はこれまでも、JR貨物の貨物列車を使って、北海道から九州まで装備品や補給品を運ぶ訓練をしてきました。

貨物列車が走る線路が守られ、複線化やトンネルの拡幅が進めば、ふだんの物流の輸送力にもつながる可能性があります。

一方で、報じられている整備の中身は、線路や物資の拠点が中心です。

旅客列車の本数や駅、バスの運転士不足については、今回の検討で触れられていません。

「貨物列車が通れる線路は残るが、地元の人が乗る列車は減る」という形もありえます。

防衛を名目にした整備が、暮らしの交通の立て直しにどこまでつながるかは、制度の設計しだいです。


試金石になりそうな北海道の「海線」

防衛と物流の両方で注目されそうなのが、北海道の函館本線・函館〜長万部、いわゆる「海線」です。

北海道新幹線が札幌まで延びると、この区間はJR北海道から切り離されることになっています。

一方で、本州と北海道を結ぶ貨物列車の大動脈でもあります。

国の有識者会議は2025年9月、新幹線の開業時点では海線を残し、貨物鉄道の機能を確保することが必要だとまとめました。

ただ、線路を誰が持ち、費用を誰が負担するのかは決まっていません。

貨物列車だけが走る並行在来線になれば、全国で初めての例になります。

新幹線の札幌開業は2038年度末ごろの見込みで、旅客列車を残すかどうかの判断も先送りされています。

検討の経緯は、国土交通省の有識者検討会議の中間とりまとめ(PDF)で読めます。

海線が防衛関連の整備の対象になるかどうかは、10月12日時点で報じられていません。

ただ、「民間の需要が乏しくても防衛上必要な路線」という考え方が問われる場所の一つになりそうです。

北海道の貨物鉄道については、石北線のタマネギ列車の記事や、室蘭線の不通と迂回ルートの記事でも取り上げています。


九州は熊本地震で迂回の細さが見えた

防衛省が国の検討会に示した資料では、北海道から九州までは鉄道なども使い、九州から南西諸島へは主に船と航空機で運ぶ想定になっています。

九州は、鉄道で運ぶルートの終点にあたります。

2026年7月の熊本地震では、鹿児島本線の宇土〜八代と、肥薩おれんじ鉄道が不通になりました。

JR貨物は、鹿児島と宮崎県の延岡のあいだをトラックで結び、延岡から先は日豊本線の貨物列車で運ぶ形をとりました。

日豊本線の南延岡より南には、ふだんから貨物列車が走っていません。

肥薩おれんじ鉄道は、九州新幹線の開業でJRから切り離された第三セクターの路線ですが、貨物列車の大動脈でもあります。

北海道の海線と同じ構図が、九州にもあるということです。

地震のあとの運転再開については、熊本地震の鹿児島本線・肥薩おれんじ鉄道の記事にまとめています。


中国地方は山陰線が代わりにならない

本州の西側では、九州へ向かう貨物列車のほとんどが山陽本線を通ります。

2018年の西日本豪雨では、その山陽本線が広島県や山口県で寸断され、全線の復旧まで約3カ月かかりました。

JR貨物は、伯備線・山陰本線・山口線を回る迂回ルートで貨物列車を走らせました。

ただ、運転が始まったのは、山陽本線が止まってから1カ月半以上たってからでした。

本数は1日1往復で、運べたのはふだんの約1%にとどまりました。

壁になったこと2018年に起きたこと
国の許可ふだん貨物列車が走らない区間で、運行に必要な許可から取り直した
機関車電化されていない区間があり、ディーゼル機関車をほかの地域から回した
運転士走ったことのない路線のため、運転士の訓練が必要だった
線路単線が多く、行き違いできる駅や列車の長さに制限があり、短い編成しか走れなかった

「線路はあるのに、すぐには使えない」ことがはっきりした例です。

山陰本線は、利用者が少なく、貨物列車もふだん走っていない区間を多く抱えています。

「民間の需要は乏しいが、いざというときに必要な線」の一つといえます。


同じ週に出た国交省の「幹線」見直し

防衛費の話が報じられる直前の10月上旬、国土交通省が、特急や貨物列車が走る「幹線」のあり方を話し合う有識者の検討会をつくる方針を固めたと報じられました。

これまで国は、赤字のローカル線について、鉄道会社と沿線自治体が話し合う「再構築協議会」の仕組みを整えてきました。

2022年の国の提言では、特急が走る線や貨物列車の多い線は、その対象から外されていました。

今回、そうした幹線にも議論が広がることになります。

人口が減るなかで、どの幹線を国として残すのかを考える場です。

一方の防衛の側は、「民間の需要が乏しくても、必要な線は残す」という考え方です。

同じ週に、国の二つの物差しが出てきたことになります。

二つの議論がぶつかるのか、それとも防衛の予算が幹線の維持を支えることになるのかは、まだ分かりません。

国の調査の概要は、国土交通省の「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」のページで確認できます。


気になる点

  • 防衛関連の支出を大きく見せるための「付け替え」にならないか
  • 防衛上の必要性で選ぶと、利用者の多い生活路線が後回しにならないか
  • 有事にしか使わない線路を、平時にどう維持するのか

今回の検討の背景には、防衛関連の支出を国内総生産(GDP)比で底上げしたいという思惑もあると報じられています。

また、鉄道の線路は、ふだん列車が走っていないと、点検や運転士の路線の習熟が難しくなります。

2018年の山陰本線の迂回でも、ふだん貨物列車が走らない線を使えるようにするまで、1カ月半以上かかりました。

有事に使う線路こそ、平時から列車が走り続けていることが前提になります。

その意味では、防衛のための整備と、ふだんの旅客や貨物の輸送は、本来切り離せないはずです。


まとめ

政府は、防衛関連経費の「公共インフラ整備」の対象に、鉄道を加える検討に入りました。

「民間の需要が乏しくても防衛上必要な整備」という考え方が示され、利用の少ない路線の維持なども想定されています。

一方で、物流は2030年度に輸送力が約34%不足する見込みで、バスの運転士不足や「交通空白」も広がっています。

北海道の海線だけでなく、熊本地震で迂回の細さが見えた九州や、山陽本線の代わりになりきれない山陰本線も、同じ課題を抱えています。

同じ週には、国土交通省が「幹線」の見直しに乗り出す方針も報じられ、二つの物差しがどう重なるかも注目点です。

防衛のための鉄道整備が、トラックやバスの人手不足、マイカーに頼れない地域の足の問題にまで目を向けたものになるかは、まだ見えません。

年末の安保3文書の改定で、鉄道がどう書かれるかが注目されます。

この記事は2026年10月12日時点の情報です。

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