室蘭線不通で山線迂回はなぜ難しいか?電子閉塞・廃線予定と代行輸送(2026年8月30日時点)

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2026年8月27日の大雨で、JR北海道の室蘭線・静狩駅〜小幌駅間に路盤流出・土砂流入・冠水が複数発生し、運転を見合わせています。

特急北斗は全便が運休となり、長万部駅〜伊達紋別駅間も終日運転見合わせです。

JR北海道は、現時点で少なくとも9月2日までの運転見合わせを想定すると発表しています。

これは9月2日に復旧する予定という意味ではなく、それまでは運転しない想定という整理です。

被災状況の全容と復旧見込みが判明次第、改めて案内するとされています。

代行輸送は、札幌〜東室蘭を特急すずらんなどで運行し、東室蘭〜長万部をバス代行、長万部〜函館を臨時快速でつなぐ構成です。

一方、小樽〜長万部の通称山線は、迂回路として使われていません。

海線(室蘭線・千歳線経由)が止まったとき、山線に北斗を載せ替えられないのか、という疑問が出やすい状況です。

本記事では、山線で代行輸送が困難になりやすい理由を、設備・運用・政策の観点から整理します。

路盤の被害だけでは説明しきれない部分が大きい、というのが要点です。

内容は2026年8月30日時点の整理です。

運休・代行・復旧見込みは変わり得るため、移動前はJR北海道の最新案内を優先してください。


目次

いま分かっていること(8月30日時点)

  • 被災区間 … 室蘭線・静狩〜小幌。路盤流出・土砂流入・冠水が複数箇所(8月28日時点で10か所以上)
  • 運転見合わせ … 少なくとも9月2日まで想定。長万部〜伊達紋別は終日見合わせ
  • 特急北斗 … 全便運休
  • 代行輸送 … すずらん等(札幌〜東室蘭)+バス(東室蘭〜長万部)+臨時快速(長万部〜函館)
  • 山線 … 小樽〜長万部は代行に使われていない
  • 復旧 … 作業は開始済みだが、アクセス道路がない箇所もあり時間を要する見込み。運輸部門は「現時点で運転再開を見通せる状況ではない」とコメント(報道)

山線とは

ここでいう山線は、函館本線の長万部〜小樽間(約140km)を指します。

室蘭線・千歳線経由の海線と対比される呼び方です。

地図上は、札幌〜函館のあいだを結ぶ別ルートにも見えます。

ただし、線形・設備・運用の前提が海線と大きく異なります。

  • 単線 … 本数に上限がある
  • 非電化 … 気動車・ディーゼル機関車が前提
  • 丙線 … 軸重に余裕が少ない区間がある
  • 電子閉塞 … 後述のとおり、海線とは閉塞方式が違う

電子閉塞と車載器が壁になる理由

山線は、通常の自動閉塞ではなく電子符号照査式(通称電子閉塞)です。

1986年頃に国鉄末期の閑散単線向けとして広く導入された方式で、駅間に軌道回路を張らず、車載器と駅装置が符号を照合して閉塞を組みます。

つまり北斗は、普段から電子閉塞区間に入らない列車です。

車載器の運用

JR北海道の電子閉塞では、可搬式の弁当箱型車載器が使われています。

機体ごとに車載器IDが固定され、出発駅で運転士が操作して閉塞を設定します。

車載器は、かつての通票(タブレット)のように、運転士が運転台に持ち込む可搬式です。

山線に入る列車は、小樽などで車載器を受け取り、倶知安などの管理拠点での事前設定も絡みます。

難しいのは、車載器を「持たせる」こと自体ではなく、列車ごとのID登録、閉塞の組み立て、ダイヤ設計、乗務員教育など、運用全体を短期間で組み直す点にあります。

海線常連の北斗を、数日のうちに山線の平常運用へ切り替えるのは構造上むずかしい、という見方です。

乗務員と「線見」

車載器と並んで、運転士側の準備も重くなります。

北斗の乗務員は普段、海線(自動閉塞・ATS-DN)を走ります。

山線に入るには、勾配・速度制限・信号配置・ATS-SNの地上子など、路線ごとの知識が要ります。

いわゆる「線見」(路線の見学・習熟)を経て、当該区間を運転できる状態にする必要があります。

電子閉塞の出発操作も、海線の運転感覚とは別物です。

機械を持ち込むだけでは済まず、人を育てる時間が別途かかる、という面があります。

老朽化と台数

電子閉塞は導入から約40年が経過し、部品の生産終了や老朽化が指摘されています。

車載器は、根室本線・釧網本線・宗谷本線・日高本線など、北海道内の電子閉塞線でも平常運用に割り当て済みです。

公表された保有台数はありませんが、予備が余っている状態ではない可能性が高い、という見方はあります。

1台につき1つの固定IDがあるため、急に本数を増やすと運用設計も別問題になります。

開設当初は閑散線を安く守る便利な装置でしたが、今は他線と連携しにくい独立システムとして残っています。


短期不通ならバス代行が合理的

山線迂回は絶対に不可能という整理ではありません。

2000年の有珠山噴火では、特急北斗などが山線経由で運行した前例があります。

ただし当時は、ATS地上子の付け替えや乗務員教育(線見を含む)など、数週間規模の準備があったとされています。

貨物列車の本数を増やすのも、乗務員の山線運転習熟が進んだあと、という報告があります。

貨物列車は1日5往復程度に制限され、普通列車の運休で路線容量を確保した、という報告もあります。

今回の不通が数日〜1週間程度と見られるなら、山線迂回の準備コストよりバス代行と臨時快速の方が現実的、という判断になりやすい、という見方です。

不通が数週間以上に伸びれば、2000年型の検討余地は出てきます。

その場合も、北斗全便をそのまま山線運用に切り替えるのではなく、本数・編成の制限が伴う可能性が高いです。


廃線予定と新幹線延伸延期

山線には、もう一つの大きな前提があります。

廃線予定です。

2022年3月、沿線自治体は北海道新幹線・札幌延伸の開業と同時に、山線全線(長万部〜小樽)を廃止しバスへ転換する案で合意しています。

一方、新幹線延伸の開業時期は2030年度末から2038年度末頃へ先送りされ、さらに遅れる可能性も指摘されています。

結果として、廃れる前提の線を、あと10年以上現役で維持する板挟みが続いています。

廃線前提になると、電子閉塞の更新や車載器の増強、丙線の改良工事などへの投資はしにくくなります。

海線が止まると山線が唯一の鉄道ルートになり得るのに、設備は更新されないまま、という矛盾が表面化しやすい構造です。


後継システムは小海線型がモデル、全国展開は予算壁

電子閉塞の後継として、2020年10月に小海線全線へATACS応用の地方交通線向け無線式列車制御が導入されました。

車載器と駅ごとの連動装置に依存しない方式で、運行管理と一体化できる点が特徴です。

地上側では、位置補正地上子(トランスポンダ)を必要な地点に置き、列車が速度発電機で走行距離を積算しつつ絶対位置を補正します。

駅間に連続した軌道回路を張らないため、地上設備の保守負担を減らしやすい、という設計思想があります。

豪雪の山間部では、このメリットは大きいはずです。

しかし1線区の導入でも、光ネットワーク・中央処理装置・全車両の車上装置化・安全認証など、大型プロジェクト規模の投資が要ります。

国の検討会でも、都市部の高度システムより安くする目標は掲げられていますが、閑散線の収益だけでは重いようです。

その結果、五能線や北海道の山線など、多くの電子閉塞線は未更新のままです。

車上装置が大きい問題

小海線型では、車両に無線式ATS-P(R)、統合型ATS、車上無線装置などを載せます。

三菱電機の技術論文(2020年)では、小海線の気動車は床下にエンジン設備が多く、車上無線装置を設置する場所がないため車内の器具箱に収めた、と説明されています。

古いキハ形式や床下が狭小な車両では、改造設計が1形式ずつ必要になります。

廃線予定の山線に、全編成の車上改造まで含めた更新を入れるインセンティブは、さらに弱くなります。


貨物とDF200は別レイヤー

山線の貨物輸送は、旅客とは別の論点があります。

現行の貨物主力機DF200形は軸重16トン級で、山線の丙線規格では走行できない区間が複数あるとJR北海道は確認しています。

ただし、全線が入れないという意味ではありません。

2000年の山線迂回では軸重14トン級前後のDD51が走っており、DF200との差は1台車あたりおおよそ2トン程度です。

JR貨物も、詳細な技術検討と改良工事、費用負担のあり方が課題だと述べています。

石北本線や四日市港線では、試運転ののち該当箇所を改修してDF200を投入した前例があります。

山線についても、全区間を乙線規格に上げ直す話ではなく、橋梁・曲線・弱点区間など該当箇所の簡易的な補強で足りる、という見方があります。


なぜ「困難」と言えるか(線引き)

ここまでを踏まえると、山線で代行輸送が困難、という言い方は次の意味にとどめるのが妥当です。

  • JR北海道が今回の短期代行に山線を選んでいない(事実)
  • 電子閉塞・車載器・単線・ATS差・線見など、海線常連列車を短期間で山線運用に組み直しにくい構造がある(技術・運用。車載器の持参自体は通票と同様で、運用設計と乗務員教育が論点)
  • 廃線予定と新幹線延期により、設備更新が進まない(政策)
  • 後継の小海線型はモデルになったが、予算と車上改造の制約で全国展開できていない(技術史)

「山線さえ使えば北斗がすぐ復活する」という単純化はできません。

逆に、「JRが怠慢だから使わない」と断定する材料も、公開情報だけでは足りません。

2000年のように長期化すれば、限定的な山線迂回は再び検討され得ます。

その場合も、準備期間と本数制限は避けにくい、という整理です。


迂回路はなぜ問われるか(貨物・食料の話)

ここまでは、今回の旅客代行に山線を使わなかった理由が中心でした。

一方で、山線をめぐる議論が単なる「特急の迂回路」で終わらないのは、貨物輸送があるからです。

全体では海運が大半

北海道の道内〜道外間の貨物は、内航海運が8割前後、JRはおおよそ1割弱、という整理が一般的です。

トラック・フェリー・内航海運の比重も大きい、というのが全体像です。

品目によっては鉄道の比重が高い

ただし、品目やルートを絞ると話は変わります。

道外へ出る野菜のうち、JR貨物が担う割合はおおよそ4〜5割、という調査・公表があります。

JR貨物自身も、北海道から出荷される馬鈴薯・玉ねぎについて、道外出荷の約5割を鉄道で運んでいると発表しています。

本州向けコンテナの大動脈は青函トンネルです。

室蘭線・海線側が長期化すると、たまねぎやじゃがいもなど収穫期の輸送にも影響が及ぶ余地があります。

食料全体の大半が鉄道、ではない。

それでも、鉄道に依存する品目・時期は無視できない、という線引きが妥当です。

有珠山噴火が示したこと

2000年の有珠山噴火では、海線が使えなくなったとき、山線が鉄道の迂回路として機能しました。

準備に時間がかかり、本数も制限されたうえでの総力戦でした。

それでも、「いざというときの逃げ道があった」ことは事実です。

ネットワークの観点では、山線のような冗長ルートの備えは必要、という見方は成り立ちます。

今回、旅客の短期代行に山線を使わなかったことと、将来も迂回路として備えておくべきかは、別の問いです。

廃線予定のまま設備を更新しないと、次に海線が止まったときも、2000年型の選択肢は取りにくい。

旅客だけでなく、食料を含む貨物の安定輸送の話にもつながります。


運行情報の確認先


まとめ

  • 8月27日の大雨で室蘭線・静狩〜小幌が不通。特急北斗は全便運休
  • 代行はすずらん+東室蘭〜長万部バス+長万部〜函館臨時快速。山線は使っていない
  • 9月2日は復旧予定日ではなく、運転見合わせ想定の下限
  • 山線は電子閉塞+車載器運用。北斗は普段この区間に入らず、車載器の持参より運用設計の面で短期切り替えはむずかしい
  • 廃線予定と新幹線延伸延期で、設備更新が進まない板挟み
  • 小海線型の後継は地上メンテ削減の魅力があるが、予算と車上装置の制約で山線には入っていない
  • 2000年有珠山噴火時は山線迂回の前例あり。今回の短期不通ではバス代行が合理的、という見方が成り立つ
  • 道外貨物全体は海運が大半だが、野菜・じゃがいもなど品目では鉄道の比重が高い。青函ルートの迂回路として山線の備えは問われる

山線は地図上の冗長ルートですが、即応の迂回路ではない、という整理が近いです。

同時に、有珠山噴火の経験から、ネットワークとしての備えは必要、という見方も成り立ちます。

今回使わなかったのは短期の旅客代行の話であり、要らない線と言い切れるかは別問題です。

閑散線向けに、安価で堅実な保安装置の選択肢が増えることは、旅客の迂回路だけでなく、貨物の冗長化にも直結します。

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